外部同期100MHzOCXOの製作



GHz帯のPLLでは基準信号に10MHzを使うとCNの点で満足な性能が出ないことが判り、100MHzOCXOを基準信号として使うことが多くなりました。

たとえば10MHzのOCXOを基準にして10GHzの信号にPLLをかけると、1000逓倍(≒2の10乗倍)したことになりますので、OCXOの位相雑音が概ね60dB(=6dB×10)増幅されて10GHzの信号を変調します。10MHzの基準信号のCNが-150dBcの場合、10GHzのCNはどんなに頑張っても-90dBcになってしまいます。
CNが同程度の100MHzのOCXOを使って10GHzを作ると100逓倍(≒2の6.6乗倍)なので40dB(≒6dB×6.6)増幅されますが、10GHzの信号のCNは-110dBcを狙えることになります。
このように、PLLの基準周波数が高い方がCNは良くなります。

ところが、100MHzのOCXOは温度補償がされているので周波数変動は小さいのですが、それでも10GHz以上のPLLにつかうとドリフトが目立ちます。WSJTなどの狭帯域モードでは不十分な安定度です。10MHzのOCXOに比べると変動が大きい様です。
10MHzの信号をPLLの基準にすればドリフトは小さくなるがCNが悪くなると言うジレンマです。GPS受信機などの信号は、周波数は正確ですが、雑音が多く含まれることがあり、これをPLLの基準信号にするとCNのひどく悪い発振器になってしまします。

そこで、100MHzのOCXOにGPS同期を掛ける装置を作り、高いCNと高い安定度を同時に達成出来ることを確かめました。

(1) 構成
GPS受信機からの10MHz基準信号を2分周して5MHzの基準信号を作ります。
OCXOの信号を20分周して5MHzにして、基準信号と位相比較して誤差信号をつくります。
誤差信号はループフィルタで平滑化、位相補償をしてOCXOの制御電圧にフィードバックします。PLLの帯域を十分狭くすることで、基準信号に含まれる雑音成分を除去しています。
位相比較回路にはEX-ORタイプを用いています。また、ロック検出も可能です。

なお、GPS受信機の10MHzが無いときのフリーラン周波数は、基板上のVRで調整できますので、GPS受信機が無いときにもある程度正確な周波数で動作します。



回路図をダウンロードする。
部品表をダウンロードする。


(2) 工作
分周器、位相比較器はアルテラ社のCPLD(プログラマブルロジック回路)のEPM3032で作りました。プログラムはAHDL(アルテラの言語)とVerilogの二通り書きました。どちらも動作しました(当たり前)が、位相比較器のところはAHDLの方が書きやすく感じました。

回路はプリント基板作り基板上に実装します。
プリント基板は両面基板で50mm×50mmの大きさです。

OCXOには断熱材(100均のお風呂保温シート)を巻き付けてあります。OCXOと回路基板はダイキャストケースに組み込みました。

基板製造に必要なガーバーデータをダウンロードする。


CPLDのソースファイル(tdf)をダウンロードする。
CPLDの書き込みファイル(pof)をダウンロードする。

CPLDへの書き込みは、ALTERAの開発環境が必要です。ALTERA社のwebサイトから無償でダウンロード出来ます。
書き込みのためには書き込み器が必要になります。メーカー純正品は非常に高価ですが、互換品を製作された方がいらっしゃいます。「USB-Blasterもどきの製作」で検索して情報を得て下さい。私も使わせていただいています。



(3)調整方法
@OCXOとPLL基板を接続する。10MHz基準信号は未だ接続しない。
A電源12Vを加える。
BOCXOの発振周波数が100MHzになるように基板上のVRを調整する。周波数は変動するので、概ね数10Hz以内に収まればよい。
C10MHz基準信号を接続する。OCXOのオーブンが温まってロックが掛かるまで数秒から1分程度掛かることもあります。ロックする直前はLEDが点滅し、ロックすると点灯します。
ロックした状態では、100MHzに対して10mHz程度の誤差になると思います。
ロック検出回路の極性をあわせるため、使用するOCXOのVcontと発振周波数の関係が正スロープ(電圧を上げると周波数が高くなる)の場合は、R22のランドをショートしてください。負スロープの場合はR22をオープンにしてください。なお、オープン・ショートのどちらでも周波数はロックします。

(4)結果
製作したGPS同期OCXOをSolilock10G Ver2の基準信号として動作させ、位相雑音を測定しました。発振周波数は8400MHzです。
GPS同期させない素のOCXOと、GPS同期させたOCXOの比較をしたところ、ノイズレベルはほとんど変化せず、GPS同期させたことによる弊害は無いことが判りました。どちらもオフセット周波数10kHzで-110dBc/Hz程度です。